ここには京都美容師時代のお客さんが絵の修復の勉強の為に住んでいるんです。
まだ働いていた頃に、フィレンツェにもし来てタイミングが合えば切ってくださいねとお願いされていたのです。
フィレンツェには行きたかったから、行きたかった場所でかつてのお客さんの髪を切ることもできるなんて素敵な話がありましょうか。いやハッキリ言ってないですな。
神様は僕に優しすぎるわ。といってもそのまま優しすぎてもらって一向に構いませんがね。
この旅でそういえば、かつてのお客さんを訪ねるのは5人目でございますな。
まだこれから先も訪ねる予定の人がいるんですが、皆なんともグローバル。
こういう仕事をしてるからなのか、たまたまそういうお客さんが多かったのかわからんが、僕のこの旅の一つの楽しみであるからありがたい。
京都でのいつものあの場所ではなく、そこから遠く離れた場所。
もしかしたらもう二度とその場所では切ることはないかもしれない特別な場所。
ただそれだけでも愛おしいのに、もう既に心が繋がってる人だもの尚更狂おしい。
今回の訪ね人は、多賀ちゃんです。
京都造形大学に通っていた女の子です。
単身でフィレンツェに絵の勉強に行くと言ったら実のおばあちゃんに、「この裏切り者ー!!」と罵られた(おばあちゃんの愛感じるな。)祖母不幸な子です。
今はフィレンツェでフランス人の彼氏のサブリと暮らしています。
彼もまた絵描きです。
そんな2人の家に行かせてもらいました。
軽くワインで乾杯し、久し振りの再会を楽しんでいました。
思い出話や、それからのことや、これからのことなどです。
そんなこんなで2人とも絵が共通点で知り合ったんやなぁなんて適当に思っていたらサブリが当然言い出しました。
「僕らは君のおかげで出逢ったんだよ。」
何故僕??と不思議そうな顔の僕に説明してくれだしました。
細かく説明すると長くなるので簡潔に言うと、どうやら僕が切った髪型が素敵すぎてたまたまBARで初めて見かけた彼女を覚えていたそうです。
そのお陰で次にあった時、「君の事覚えているよ。髪型が印象的だったからね。」と多賀ちゃんは、「あんた誰よ??」な感じなのにサブリが一方的に覚えていたというところから2人の出逢いは始まったのでした。
数ヶ月たって多賀ちゃんの髪が伸びた時、サブリが「イタリアでもフランスでも上手な美容師さんはいるんだから髪の毛切りなよ。」と言ったそうです。
けど多賀ちゃんは、「私の髪を切ってくれる人は日本にしかいないの。けどその人ももう旅に出てしまって日本に帰っても切ってもらうことはできないんだけどね。」と説明したそうです。
僕はそれを聞いて、溢れ出ようとする涙を堪えるのに必死でした。
サブリは続けます。
「その美容師さんが、今ここにいるから僕は凄く嬉しいんだよ。君のおかげで彼女と出逢えたんだから。」と。
もう僕の涙腺は崩壊寸前でした。
僕が切った髪型が、こんな日本から遠く離れた異国の地で出逢いという幸せの奇跡を紡いでいたということ。
いやそれよりも、多賀ちゃんにそこまで思ってもらえていたことを初めて知ったこと。
それが見事なまでに僕の感情を意思とは関係なく揺さぶりました。
自分の事で泣いたことなんてほとんどない僕ですが、美容師をしていて何度か涙を堪えたことがあります。営業中なので。
僕の涙が出る時、それは髪型を褒められた時ではありません。
素敵な人に出逢えた。と僕のことをそんな風に思ってもらえてるんだと感じた時です。
その時に僕は溢れ出そうな涙を堪えながらこの仕事をしていて良かったと思えるんです。そして、自分がそこに涙できる人間になれていることを嬉しく思います。
そこに僕が鋏を握る理由があるからです。
そして涙が零れないうちに、その思いのまま多賀ちゃんの髪に今夜も鋏を入れました。
一時でもあなたと共に生きた髪。
あなたから離れ、もうあなたではなくなるけれど、
また新たな幸せと出逢いを紡いで行く糸になることを願って。
素敵な出逢いをありがとう。
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